放射線を少し勉強しましょう

はじめに

放射線という言葉を聞くと先の震災による福島の原発事故を思い出し、とても怖いイメー

ジをいだきます。一方医療機関での胸部レントゲン写真、CTMRIやがんの放射線治療など

医療における放射線は身近な存在になっています。また植物の品種改良、医療機器の滅菌、

半導体の製造、天井の煙感知器などにも放射線が利用されています。ここで改めて放射線

のことや被曝による健康への影響について整理してみましょう。

放射線の正体

放射線の正体は“高速の粒子の流れまたは高エネルギーの電磁波”で、その放射線を出す

能力が“放射能”ということです。飛んできた粒子や電磁波に人体がさらされる(被曝す

る)と細胞や組織がダメージを受けることになります。

言葉の意味

@ベクレル(Becquerel:Bq):1秒間に変化する原子の個数。難しくてよくわかりません。

Aグレイ(Gray:Gy):人体1Kgに吸収された放射線の線量を表します。

Bシーベルト(Sievert:Sv):人体への影響の度合いを表したものがシーベルトです。人体が

受ける放射線の影響は受けた放射線の種類によって異なり、グレイに放射線荷重係数をか

けたものをシーベルトとして表しています。放射性ヨウ素やセシウムから出るガンマ線、

レントゲン撮影で出るX線は荷重係数が1なので、吸収線量(Gy)×1=等価線量(Sv

と計算されます。つまり1グレイ(Gy)=1シーベルト(Sv)となります。ウランやプルト

ニウムから出るアルファ線は荷重係数が20なので人体への影響はとても大きくなります。

Cテレビや新聞で登場する○○ミリシーベルトは1時間あたりなのか年間あたりなのか確

認する必要があります。1シーベルト(Sv)1/10001ミリシーベルト(mSv)です。

放射線被曝による人体への影響

放射線の人体への影響は2つに分類されます。

1つは「確定的影響」、もう1つは「確率的影響」といいます。

確定的影響とは「ある被曝線量(しきい値)を超えると障害が発生する影響」のことで、

皮膚障害、脱毛、造血機能低下、不妊、白内障などが該当しますが、1回の被曝あるいは

短期間での被曝で“しきい値”を超えない限り障害が発生しません。今回の福島の原発事

故関連での被曝では起こりません。確率的影響とは「線量に関係なく、被曝線量の増加と

ともに障害の発生率が増加する影響」のことで、被曝が原因で発生するがんなどが該当し

ます。これは「被曝線量とがん発生率の関係にはしきい値がなく、かつ比例すると仮定し

たもの」です。これは一瞬で高線量を浴びた広島・長崎の被爆者の疫学調査をもとにして

おり、低線量被曝での健康の影響については明確な知見はありません。

実際の被曝について

@自然被曝:

日本での平均年間自然放射線被曝線量は1.5mSv

80才までの生涯積算は1.5mSv×80年=120mSv

世界の平均年間自然放射線被曝線量は2.4mSv

A医療被曝:

 胸部X線撮影は0.06mSv(デジタル撮影は0.01mSv

 胸部CT6.9mSv

 胃のバリウム検診は0.6mSv(胃カメラは0です)

Bチェルノブイリと福島:

 チェルノブイリでは放射性ヨウ素に汚染された牛乳を大量に消費したため、避難住民の9

割以上の未就学児が甲状腺等価線量で200mSv以上被曝し、追跡調査で甲状腺癌の発症の

増されました。福島では最も高い被曝線量でも50mSv相当で99%の子どもが20mSv以下と

言われています。

※参考文献:

 ♦第27回横浜市医師会学校医部会総会・研修講演会:

「放射線の子どもへの健康影響」(H231014日)

 ♦神奈川県医師会報:放射線被曝の考え方(H23510日)